徒然月記

岡三リビックの広報誌「岡三マンスリー」の編集者によるコラムです。
徒然なるままに、多ジャンルの様々な事柄に関する雑学的知識が綴られています。

2021年度

百年遊べる『モルック』

人生百年時代を迎え、様々な生涯スポーツへの関心が高まっている。そんな中、体力差に依存せず子供からシニアまで皆でできる競技として最近注目を集めているのが「モルック」だ。
モルックは1996年にフィンランドで考案され、全世界で3万人近い愛好家がいるという。日本ではここ10年ほどで知名度を上げたが、まだまだ発展途上だ。

その内容はボッチャやカーリングを混ぜ合わせたような感じで、1~12の数字が書かれた木製のピン12本と、これを倒すための投てき棒を使う。棒を投げて倒れたピンが一本ならピンの数字が点数で、複数を倒せば倒した本数が点になる(その場合は棒の数字は無視)。先にぴったり50点を得たら勝ちで、51点以上になってしまったら25点から数え直す。
ピンは最初は密集隊形で、弾き飛ばされる度にその位置で立て直されるため徐々にばらけていく。その状態からいかに効率よく点を得るかがプレーヤーの頭と腕の見せ所だ。また参加人数によって一対一かチーム戦かの選択ができる柔軟さも魅力といえる。

公式競技は指定メーカーの道具を使うが、ピンと投てき棒はぶっちゃけ、ただの棒なので、町内会イベントのレベルならペットボトルのピンで弾き飛びやすくする改変なんかもアリだ。

架空の橋を架橋

EU統合の象徴・ユーロ紙幣の裏側には、どの額面も左上に橋の絵が描いてある。これは通貨が経済の橋渡しとなるといった意味合いで、五ユーロの古代ローマ水道橋から五百ユーロの斜張橋へと額面が高くなるほど現代的なデザインの橋になっているが、加盟国の優劣に繋がらないよういずれも実際にはない架空の場所の絵だ。
ところがその橋の「独占」に動いたのがオランダ・ロッテルダム郊外の小さな町スパイケニッセ。新しく開発した住宅街区の運河に散策の楽しさを加えるため、地元デザイナーの遊び心で、このユーロ紙幣に描かれた七種類の橋を現実に作ることにしたのだ。
設計にあたってはデザインの再現のみならず額面ごとの基調色の違いも考慮するなど「紙幣ありきの立体物」にこだわった。造られた場所が住宅街の小さな水路のため可愛らしさがあり、一部の橋などは片側が五ユーロ、反対側から見ると二十ユーロというユーモラスな姿になっていることも含め、あえてのフェイク感が醸し出されている。
ちなみに計画実行にあたっては一応、欧州中央銀行に打診し了解を得ているという。紙幣として使えないならそっくりに作るのも違法ではないらしい。

人類紀元元年

日本は令和という国独自の元号を採用する一方、西暦を併用して世界とのギャップを埋めている。
しかし西暦はキリスト教以外の宗教からは一部反感もあるうえ、実はキリストの生誕は紀元前4年頃であるらしく、その根幹がゆらいでいる。また紀元ゼロ年を考慮するかどうか学問により違いがあるなどで年数算出での不便もあるという。そこで提唱されているのが、使い慣れた西暦に一万年を足す「人類紀元」という考え方だ。
なぜ1万2000年前からかというと、人類史上初の大規模建造物とされるトルコの「ギョベクリ・テペ遺跡」がこの頃のものだからだ。高さ6メートルの石柱などを含めかなり計画的に造られており、人類史の始点に相応しい。また地質学的にもちょうど氷河期以降の現代「完新世」の始まりに相当し、ひとつの時代区分になっている。
ここを元年とすると、ナイル川やインダス川の文明が芽生えたのが7000年頃。中国最初の王朝「殷」が8400年~、古代ローマが9200年~、日本で言うなら縄文時代が紀元前3000年~9000年頃となる。こう数えると、人類がどれほどの時間をかけて世界を積み上げてきたかという地続き感がより強く伝わってくるのではないかと思う。

ちゃぶ台で団らん

かつて家の間取りが和風だった時代、その家族団らんの中心にはちゃぶ台があった。ただ、高度成長期以降に普及したテーブル生活との対比でちゃぶ台は伝統的な家具と思いがちなものの、実はさほど古いものではない。

ちゃぶ台が登場する以前、例えば江戸時代の頃は銘々の食事がお膳に乗って小分けされていた。多くの場合で食事の順番も家長が優先され全員一緒ではない。だがそこに明治以降、ヨーロッパ式のテーブルを使う食事の文化が持ち込まれ、これを日本の床暮らしに応用した食卓がちゃぶ台の元となる。

特に明治末期に足が折り畳める丸型のものが流通し始めると、都市圏の、場合によってはリビングもダイニングも、ベッドルームもひとつの部屋で兼ねるような狭い庶民の家々で圧倒的に支持されるようになった。四隅がないことで狭い部屋での行き来の邪魔にならないうえ、座る人数や位置を限定しないことが広く人気を博し、東京だけで一日3,000個も生産されたという。丸い卓はまた、新時代の家族関係は平等で対等なものという空気を醸成することにも貢献した。

ところでそもそも「ちゃぶ」とは何だろう?中国語の「吃飯(食べる)」など由来を外国に求める複数の説があるものの、詳細は不明という。「卓袱台」の漢字も中国語由来の当て字だ。

「土木」の本

近年はダムブームで写真集が出るなど土木構造物ににわかに注目が集まっているが、土木の世界に焦点を当てつつ一般向けな本というものをあまり世の中で見かけない。そんな中でも独特な著作を二冊ほど取り上げたい。

「アンダーグラウンド・都市の地下はどう作られているか」
(作 デビッド・マコーレイ 岩波書店)
海外作家の訳本。都市インフラや建築物の基礎など地面の下にあるものを豊富なイラストとともに解説。都市の地中をモグラ視点で見たり、人体臓器模型の血管のように行きかう管路を抜き出すなどユニークな表現の絵で見せる。全体の体裁が絵本的で小学校高学年位からとっつきやすい。

「インフラメンテナンス・日本列島365日、道路はこうして守られている」
(写真 山崎エリナ グッドブックス)
道路やトンネルなどのメンテナンス・延命工事の現場風景や携わる人々に焦点を当てた写真集。国土交通省もこれを「第3回インフラメンテナンス大賞」で表彰するなどして注目を集めた。現場の写り具合が無駄にカッコ良く、人々の笑顔にほっこりする。山崎氏は土木系写真集をいくつか出版している。

他にも「こんな面白い土木の本がある」というお勧めがあれば是非教えて下さい。

時間よ止まれ

なじみの街の散歩中、新しい建物の工事に遭遇し「あれ、ここ前は何だったっけ?」と思うことは少なくない。都市は常にスクラップアンドビルドを繰り返し、古いものはあっという間に消えてしまう。
以前、東京都内のそんな再開発現場のひとつで、取り壊し待ちの木造民家にスポットを当てた展覧会が開かれた。
経済の論理に照らせばあっという間に終わる解体作業に介入し、時間と空間をいっとき止めるという試みだ。家はそのままではなく、外装や屋根材が丁寧に取り払われ、上棟式を待つかのような骨組みだけの姿にされた。
はがされた床板の代わりに透明な強化ガラスが一面に敷かれており、来訪者はこの家の中を自由に歩き回ってその「面影」を味わうことができる。元の間取りを想像しながら見ていたら案内係に二階へも梯子でどうぞと促された。しかし二階の床も総ガラス。踏み出した足が本当に二階の床を捉えてくれるのか一歩一歩ビビりながらの腰の引けた空中散歩体験をした。
高台で見通しの良い現場から、上下左右に遮るものが何もない不思議な視界で都内を遠望すると、眼下のあちこちに工事のクレーンが見える。消え去るものを一瞬でも気にかけてくれたこの展示に少しばかり感謝した。

マンガ肉、作ってみた

一本の大きな骨にこんもりと肉塊が付いた、いわゆる「マンガ肉」にガブつくのが昔からの憧れだ。マンガ肉をメニューに出す料理店もあるが、骨の周りに挽肉を盛って固めたハンバーグであることが多い。個人的にはもう少し肉らしい歯ごたえが欲しいので、自分で作ってみることにした。

芯になる骨だが、出汁取り用などで売られている骨はごつくてちょっと生々しい。よほど肉を盛り付けないと骨の存在感に肉が負けてしまう感じもする。あれこれ悩んだ末に、マンガ肉専用の偽物の骨(耐熱陶器製)という有難い商品に行き当たった。長さと太さのバランスや両端形状のほどよいマンガ感がイメージにぴったりだ。

調理は、肉を巻き重ねて厚みを出す手法にした。まず切落し肉と薄切り肉をタレで下味をつけておく。広げた薄切り肉に切落し肉を並べ、その上に骨を乗せて、肉を骨に巻いていく。形を整えてからさらに二層目を外側に重ねて、いい感じのボリュームになったところでオーブンに突っ込む。焼け具合を監視しつつ待つこと約20分。無事、年輪状の断面を持つマンガチックな肉が出来上がった。

ピラミッド現場

紀元前2,500年の昔、エジプトのクフ王の「ギザのピラミッド」は大勢の奴隷が鞭打たれながら作った、と古くからいわれて来たのだが、実際は健全な職場だったことが最近の調査で明らかになっている。

エジプトではナイル川が氾濫する夏から秋の数ヶ月は農作業ができなくなる一方、増水した川は石材の運搬にむしろ都合が良く、ピラミッド建設にはこの時期の農民の余剰労働力が効果的に投入されたらしい。そしてこれら労働者への日給にはパンとビールが配られたため、みな士気は高かった。労働者宿舎の遺跡からは牛の骨なども多数出土しており、しっかり栄養を摂って作業に当たっていたようだ。
そんな好待遇で、約20年の歳月と連日1万人規模の労働力を投入。財政が心配になるが、当時のエジプトは人口数百万人を抱えており、意外に無理のない範囲の国家事業だった。

また、不幸にも作業中の事故で亡くなった人は、ピラミッドにほど近い共同墓地に埋葬された。そのこと自体が建設従事者の地位が低くないことを示すうえ、墓石には「クフ王の友人」という一文まで記されていた。先代の王への敬意を忘れないため国と民とが一致協力して進めたイベント、それがピラミッドの建設だったのだろう。

珍兵器列伝

第二次世界大戦は大量の兵器が開発・生産される技術力の戦いであった。しかし正攻法な兵器開発の一方で、常軌を逸したものも多く企画された。特にドイツにはその傾向があり、科学者の理屈が先行する風土だったようだ。
最たる例が「竜巻砲」。人工乱気流を発生させ来襲する敵機を墜落させる、というアイデアで、なんと基礎実験には成功したらしいが流石に実用化には至らなかった。

しかしイギリスも負けていない。氷にオガクズを混合した「パイクリート」という材質でできた不沈空母(人工島)を構想した。なぜ不沈かといえばダメージを受けても周囲の海水を取り込んで凍らせればいくらでも再生可能だからだ。この計画には意外やアメリカ・カナダも加わって実現を目指したというが、船体の維持に強力な冷凍設備を必要とし非効率極まりなかったため、試作の段階で計画は中止された。

我が日本でいえば、満洲で陸軍がテストしたらしい珍兵器がある。人の背丈ほどの巨大ヨーヨー形で、そのままゴロゴロと転がる一人乗り装甲車。しかし視界が狭く装甲も貧弱で、戦地でこれを接収したロシアもその用途を測りかねた代物だ。機械的な構造からドイツ製ではないかと推測されているが、そうした兵器を開発・テストした記録は日独のどこにも見つかっていない。

黒子のトロン

近年はカメラや音響機器、自動車など様々なモノ同士が通信で結ばれ、住宅や家電のIoT化といった話題にも事欠かない。こうした場面で活躍の場を広げているのがIoT用国産OS「TRON」だ。国内ではUNIX系などを抑えトップシェアだという。

トロンは80年代に着想され、国内大手電機メーカーがこぞって参画。生活の場全般で統合的に用いることを当初から想定し、コンピュータ制御の「電脳住宅」が試作されるなど先進的かつ意欲的な仕組みだった。
だがバブル景気に沸く日本を危険視した米政府がトロンを非関税障壁リストに含めたことが逆風となる。当時トロンはPC用OSへの発展が見込まれていたが、腰がひけた日本メーカーがPCへのトロン採用を相次いで見送り、これでマイクロソフトのライバルとなり得たOSが日本市場から消えたのだ。そのため「アメリカがトロンを潰した」とよくいわれるが、これは解決策を見出せなかった日本側の失態だろう。

そして時は流れ2018年、米国電子電気学会(IEEE)はトロンが既にIoTに欠かせないとして学会自ら管理に乗り出す国際標準規格に規定。地味に電気製品の中の黒子として尽くしたことで、30年越しの無念をようやく晴らすことになった。

120年前の未来

今から120年前にあたる1901年、報知新聞が、100年後の世界を23の項目に分けて予想した記事を載せた。内容は俗っぽいが、東京神戸間が鉄道で2時間半になると言及するなど(のぞみは最速2時間38分)現代生活をけっこう的中させている。

科学技術面で興味深いのは、遠隔で品定めをして物を買う通販システムを言い当てつつも、その配送には地中鉄管(=気送管)を想定していることだ。
気送管は空気圧で荷物を配送するシステムで、現実ではビル内や地区内の書簡連絡用程度でしか普及していないが、当時の未来予想図では上下水道や電線共同溝と並んで大型気送管が地中に埋められ、貨物が自動配送される様子が度々描かれている。これが現実にあればウーバーイーツも生まれず都会の路上はもう少し平和かも知れない。

幸いにも予想が外れているのは野生動物が動物園以外で絶滅したとされていることだろうか。ただ、この100年でも世界で何十種もが実際に絶滅し、動物園の役割は年々重みを増している。
砂漠の完全緑化や気象の自由操作といった予想もされているのだが、人類にそこまでできる技術があったら恐らく地球温暖化も容易に解決する。そして野生動物の生息環境をきっちり保全して絶滅を防ぐことが可能に違いない。

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