徒然月記

岡三リビックの広報誌「岡三マンスリー」の編集者によるコラムです。
徒然なるままに、多ジャンルの様々な事柄に関する雑学的知識が綴られています。

2024年度

西之島十年

2013年の暮れに小笠原諸島の西之島で新たな陸地が文字通り爆誕してから10年以上が経った。いまや中央の火山は標高160m、島の面積は噴火以前の20倍にまで成長し「波で侵食されて消えるかも」という当初懸念を完全に払拭。有難いことに日本の領海が4km2、EEZは46km2も大きくなった。

また生物学的な観点からは、当初の陸地が溶岩に覆い尽くされ埋没したことによる「生態系がリセットされた離れ小島」という環境は世界的にも珍しく、今後どう発展・変遷していくのかについて注目が集まっている。
調査によると、元々同島に棲息していたカツオドリなどの海鳥は概ね噴火後に回帰し営巣しているが、年によって増減がありどの程度定着するかは継続的観察が必要であるという。 昆虫も複数種の回復が確認されているものの、植物の生育がまだ弱く草食性のバッタなどは途絶えたまま。また理由は不明ながらゴキブリだけはここぞと勢力を伸ばしており、静観か駆除かの議論がなされているそうだ。

マンガの多様性

最近、ディズニーの映画やアニメが多様性への配慮が過ぎるとしてファンの間に波紋を呼ぶ事態となっている。一方で日本のマンガやアニメは、こうした世界的な風潮に無頓着にも思えるが、実際はどうだろうか。

・手塚治虫「リボンの騎士」
1953年発表の少女漫画。神の悪戯で男女両方の心を持って生まれた少女が、表向きは勇敢な王子として振る舞う。後に女性として生きることを決意。

・石ノ森章太郎「サイボーグ009」
1964年発表のヒーローもの。主人公のチームは白人5人、アジア人2人、黒人1人、ネイティブアメリカン1人と人種に富み、うち3人は共産国出身だ。

・井上和彦「リアル」「バガボンド」
一方で現代の車いすバスケをクールに描きつつ、同時期執筆の別漫画では剣豪佐々木小次郎をろう者と設定し障害を越えて闘う人物像を描いた。

・中村光「聖☆おにいさん」
2006年発表。キリストとブッダが現代日本に密かに降臨し8畳のアパートで共同生活を贈るというギャグ作品。恐らく宗教に寛容な日本でしか産まれ得ない神作(神だけに)。

知らなかったラジウム

原爆や原発事故を通して、人々は放射能とはどういうものかを深く学んだ。しかし放射性鉱石の採掘夫をはじめ、日常的に放射能に触れ被曝した人々がそれ以前からいたことについてはあまり語られることがない。

現在、腕時計の文字盤に使われている夜光塗料は基本的に蓄光性のものだが、20世紀初頭にはラジウムと硫化亜鉛を混ぜ自発光させるものが好んで使われた。この塗料を文字盤に塗っていく工員達が、そうした被曝の最たる例だった。特に、筆塗りする手だけでなく、筆先を整えるために口先でなめたりしたことで口内や体内にラジウムが蓄積し、後になって癌など様々な後遺症に悩まされていく。このことで1928年にはアメリカの時計工場の女性工員が健康被害への裁判を起こしたりもした(最終的に和解)。

古い時計の夜光塗料は既に色あせて蛍光性が失われていることが多いが、含まれるラジウムは半減期が1,600年とあって今でも放射能を帯びている。ただし放出しているのは「アルファ線」で、ケースに収まった状態であれば透過しない性質なので腕に巻いても使用者に健康被害を及ぼすものではない。家に古い時計がある人もご安心を。

先進的アパート

先日、UR(都市再生機構)が運営する東京都内の展示施設「まちとくらしのミュージアム」を訪ねた。都市開発や災害復興などURが展開する事業のPR施設だが、その目玉は戦前の「同潤会」や戦後の公団アパートなど様々な団地住宅の間取りが再現された空間だ。

特に興味深いのが1957年、東京都中央区に建った「晴海アパート」。定型的な団地間取りからの脱却を試みる斬新な高層アパートだった。エレベーター停止階と非停止階がある「スキップフロア」が特徴で、非停止階は不便と引き換えの広い住戸面積が人気だったという。

その共用廊下は長屋的コミュニティ形成を念頭に幅2mを確保、子供の遊び場や井戸端会議に配慮している。さらに人の出入りが邪魔にならないよう各戸玄関も鉄扉ながら引き戸とされた。

室内全体もデザインにこだわり、台所には国内初となるプレス加工のステンレス流し台が導入され先進性を強調。和室も見た目重視で850×2,400mmという特殊な畳があつらえられた。

しかし何でも完璧とはいかない。2階は地上からすぐなのにエレベーター非停止階で、3階から下りるしかない構造がまわりくどいと住民から不満が出て、そこだけは外から直接入れる勝手口が後付けされたそうだ。

ご迷惑をお掛けします

近年日本では、ブラックバス、アライグマ、それにヒアリなど、外来生物を巡る様々なトラブルが顕在化している。しかし実は、我が日本由来の生物も、海外でえらく迷惑をかけているようだ。

・ワカメ 世界の港湾で繁茂し、海中設備を故障させたり、養殖エビのケージを取り巻いてエビが大量死するなどしている。しかも、海外の方々にはワカメを消化できる体内酵素がないとされ、食料に転用することができない。
・クズ 和菓子の材料や葛根湯などでおなじみ。アメリカでバルコニー飾りや、のり面安定用として輸入したものが、いまや九州に匹敵する面積に自然繁茂。地場植物の成長を阻害するなどの問題を生じ、侵略的外来種に指定された。
・イタドリ その花のかわいさでイギリスの庭園用にもてはやされたが、天敵となる害虫や他植物がいないため好き放題に成長し歯止めがかからない事態に。宅地内でのイタドリ自生の有無が事故物件並みに不動産価値を左右している。

イギリスではイタドリマダラキジラミという天敵の虫まで日本から持ち込んで対策しようとしているが、余計に傷口が広がらないことを祈るばかりだ。

下水道も国の宝

東京都荒川区の下水道施設「三河島水再生センター」を見学で訪問した。
同所は1922年、日本最初の近代的下水処理場として建設された。当初の受益地区は浅草や吉原などの下町一帯。都心部への本格整備前のテストベッドとしてここに下水道が敷かれたのだ。都市の近代化を目指した日本の技術者は欧米の様々なインフラを視察。下水道については河川などの地理的条件が似ているイギリスを参考にし、ロンドン以外の地方都市にも足を運んだ。

結果として三河島は当時最先端の設計思想の下、土砂やゴミのスクリーニング槽、計量装置、揚水ポンプなど、合理的な動線と機器で構成され、その後の設備の更新を経つつも1999年まで使用された。これら設備一式や地下管路、ポンプ場建屋などは現在、国の重要文化財に指定されている。建物はぱっと見レンガ造なのだが実はRC造にレンガタイル貼りと思いのほか現代的で、関東大震災にも耐えることができた。

かつて使われた地下の馬蹄型管路は、底面はレンガ瓦敷きである一方、コンクリートとみられる壁面と天井は管路の分岐点や合流点を含めその形状に一切の角がなくシームレス。どのように施工したのか、先人の熱意と工夫には感服するしかなかった。

残った日本語

ちょっと驚いた。日本国は特に公用語を定めていないのだという。ほぼ日本語しか使われていないため、法制化するまでもないということだそうだ。一方で、世界で唯一、日本語を公用語に含めているのが、東南アジア・パラオ共和国のアンガウル州だ。パラオは太平洋戦争後も少なくない日本人が生活していた関係で日本語が根付いており、現地語にも多くの単語が浸透している。

〈現地語化した単語の例〉
・アリガトウ(有難う)
・ダメ(駄目)
・ベントウ(弁当)
・ブロシキ(風呂敷)
・ツケモノ(漬け物)
・ダイジョウブ(問題ない)
・アジダイジョウブ(美味しい)
・オカネ(お金)
・オツリ(お釣り)
・アツイ(暑い)
・ヒドイ(激しい)
・ショウガナイ(しょうがない)
・メンドクサイ(面倒臭い)
・コマッテル(落ち込む)
・センキョ(選挙)
・シンブン(新聞)
・デンキ(電気)
・カンケイシテル(関係がある)
・ツカレナオス(酒を飲む)
・アタマグルグル(混乱する)

ただ、日常的に日本語で話す家庭はアンガウルにはもういないという。

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