徒然月記

岡三リビックの広報誌「岡三マンスリー」の編集者によるコラムです。
徒然なるままに、多ジャンルの様々な事柄に関する雑学的知識が綴られています。
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2018年度

大江戸交通戦争

2018.08

 江戸の街は自動車も信号もなかったが、意外や交通事故が頻発していた。
 その犯人は馬や、江戸時代初期に発明されたとされる大八車。大八車は牛馬を使わずに大荷物を運べる利便性から江戸の商人らがこぞって使い始め、あおりで伝馬町の馬引きが生活に窮したほどだった。そのため大八車には伝馬町支援名目で有料の許可証が義務付けられ、おかげで1700年頃の江戸には大八車が2239台あったと記録にしっかり残っている。

 運用に際しては、積載制限や路駐禁止、2人以上で扱うこと等の取り決めがあるにはあったが罰則はなく、坂道を転げ落ちる、民家に突っ込む、荷崩れを起こすといった事故も相次いだ。そこで1716年に、往来の事故で死人が出た場合は例え過失であっても車引きを島流しに処す厳しいお触れが初めて発布された。更に1742年には最高刑が死罪に引き上げられ、車引きだけでなく持ち主の使用者責任も問うものへと刑罰が重くなった。実際に、子どもをはねて死なせた車引きが死罪に、同行の補佐役が島流しに問われた事例もあったそうだ。

 現代の法では自動車運転過失致死で死刑や終身刑になることはないが、それだけ太平の世に死人を出す大八車が危険なものと見られていた表れだろう。

そこに山があるから

2018.07

 世界一の山といえば、標高8,848mのエベレスト(チョモランマ)。近年は登頂ルートが整備されたことで観光登山も増え、これまで累計3,000人以上が登頂しているという。その一方でこの21世紀においてもなお、地球上には未踏峰が数多く存在する。

 そうした山の代表が中国のチベット自治区にある連山「梅里雪山」だ。連山最高峰のカワカブでも標高6,740mとエベレストに比べれば格下と思いきや、これまでの何度かの冒険家たちの試みは全て失敗に終わっている。
最大の要因は険しい地形と荒れやすい天気。1991年には日中合同の登山隊17名が挑んだものの、キャンプ地を雪崩が襲い全員が死亡するという痛ましい事故も発生した。
そもそも梅里雪山はチベット仏教の聖地として連山の麓を一周する巡拝などは盛んな一方、山に踏み入ること自体は不敬行為とされ地元民にシェルパを頼むこともできない土地だった。そして2001年にはとうとう地元政府が正式に入山を禁止、法的にも登れない場所となってしまった。

 余談だが、日本の谷川岳は標高わずか1,977mながら800人以上の山岳犠牲者数という不名誉な世界一の称号を持つ。これは首都圏からの交通の便が良く、甘い認識のまま挑む人が多いためだとか。近年は登山ブームが続くが、慎重過ぎる位の心構えが必要だ。

ユニバーサル文字

2018.06

 目の不自由な人のために作られた触る文字「点字」。19世紀にフランスで生まれた「ブライユ式」と呼ばれるものが世界的なアルファベットのスタンダードで、日本ではこのブライユ式を基にひらがな用に転換したものが明治の中頃から使われている。
しかしながら点字は健常者には縁遠い存在で、普通の文字とは全く別に扱われるのが常であった。

 だが、そうした慣例を打ち破るアイデアが、日本の若いデザイナー、コウスケ・タカハシ氏によってもたらされた。点字の配列の上にうまく文字の線が乗るようにしたフォント「ブライユ・ノイエ」を考案し、点字とアルファベット、点字とカタカナを同じ場所に書くことを可能にしたのだ。この点字の再発明とも呼ぶべきトピックは、世界からも大きな注目を浴びている。

 これを使えば一般用と点字用に別々の説明板を用意せずとも済み、また子供は誰でも同じ本を楽しめるだろう。タカハシ氏自身はこれは、東京五輪に向けたユニバーサルデザインの試みだとしている。もしかしたら2年後にはこの文字、大きな飛躍を見せているかも知れない。

ドイツは遊びも職人技

2018.05

 ドイツのハンブルグ市に「ミニチュアワンダーランド」という、世界最大とされる鉄道模型の展示館がある。
だが、線路総延長15kmともいう巨大ジオラマで運転される何百もの列車や建物は市販品がベースのものも多く、失礼を承知で言えば趣味の延長に見える。ここの凄いところは実は、一般に鉄道模型では風景の一部となる車や船が列車以上にハイテクで、それをスタッフが自力開発している点にある。

 ジオラマ上の道路を埋める数万台の車は全て個別に動く。みな交差点の信号を遵守して止まるだけでなく、電池が減ると裏方に引っ込み充電してまたジオラマに戻る行為まで含めて完全自動化されている。部屋を暗くした「夜」の情景で全車ライトを灯すのはもちろん、「昼」にも一部の車はライトオン主義だったりとこだわりも細かい。
白眉は船のモデルで、実際に水に浮きつつ、自位置や周囲の船との距離の判定に常に超音波を発して航路を外れないようプログラミングされ、港への接岸の様子なども完全再現している。

 こうして日々のジオラマ運行にはほとんど人手がいらない一方で、その運行システムと展示空間は随時改良と拡張を重ねており、開発スタッフは100人を下らないのだそうだ。

国産鉄橋のはじまり

2018.04

 東京・深川の富岡八幡宮脇の堀跡に架かる小さな鉄橋「八幡橋」。気づかずスルーしそうなくたびれた感じの橋だが、架橋から140年と国内に現存する鉄橋としては大阪市の「緑地西橋」についで2番目に古い。
皇居馬場先門から東に伸びる道にあった「弾正橋」が鉄橋として架けられたのは明治11年のこと。その後この橋の廃橋に伴って昭和4年、深川に移設され、幅を切り詰めた人道橋として第二の人生(橋生?)を歩むことになったものだ。

 この橋で使われている鉄はこんにち橋梁用で一般的な鋼鉄(スチール)ではなく、鋳鉄と錬鉄(アイアン)。まだ八幡製鉄所も釜石製鉄所もない時代に国産鉄材を用いた橋の国内最古の事例だ。
全体的には機能美ある佇まいのなか国章である菊紋が側面部の装飾として用いられているのは、恐らく設計製造した政府工部省による国産品アピールなのだろう。工部省製の工作機械などにも同様に菊紋付きのものがある。

 かつて艀(はしけ)で溢れていた橋の下の堀は今は埋められ遊歩道として再整備されているので、上からも下からもじっくり観察しやすい状態なのが嬉しい。

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